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人間とトイレ。

これは切っても切れない関係だ。
俺は一日に必ず、一度はトイレに行くし、
女性はそこで顔を作り直しているらしい。
さながら顔製造工場だ。

女子トイレなぞ、人生で入った事もないが、
きっと男子トイレとは違った、
なにかファクトリー的な建造物に違いない。
なにしろ、顔が作り直されて帰ってくるのだから。

古来より、排泄行為の時には、
地面に穴を掘ることでトイレを作り、
今では、全自動で蓋まで開いたりする。
水も出る。
トイレ自身がまるで用を足しているようではないか。
まさに逆転の発想。
恐るべきTOTOである。

人間、いや、生物である以上必ず必要な行為。
それはつまり、切っちゃっても構わない盲腸とか、
一個なら切ってもなんとかなる腎臓よりも
位は高いのではないだろうか。

そして、大体が、
「突然」
その行為をするよう脳が命令をしてくる。

つまり、俺は今、猛烈にトイレに行きたい。

なぜなのか。
それは簡単だ。

香坂が、いちいち、
細かく奥さんとの馴れ初めを話しているからだ。
あまりにも興味が無い話をえんえんと聞かされれば、
それは尿意ももよおすというものだ。
むしろ、尿意が我先にと出たがってくる。

いったい今は彼の年表でどのくらいなのだろう。

そういえば、
最初の方にジョーズの話があった。
と言う事はだ。
たしか、あの映画は1970年半ばだったはずだから、
1976年だとしても、
33年分の思い出話があると言う事だ。

これは、まさか。

まさか。

まさか33年分の思い出全部語りつくすつもりか。

なんという暴力。
言葉の暴力である。
言葉の洪水に飲み込まれた俺は、
深海に沈んでいくことしか出来やしないじゃないか。
適当な相槌が逆に、香坂のトークエンジンのギアを
トップに入れてしまったのか。

やはり、俺はこの男と友達にはなれそうにない。

いや、いや、待て。
ジョーズの公開が
1970年半ばじゃないかもしれないじゃないか。
2000年に公開されていれば、たったの9年だ。
ジョーズは2000年に公開されたんです!

・・・そんな訳無いじゃない。

変な発想にすらも、
一瞬祈ってしまうような状況の中、
「すいません、ちょっとトイレ」
の一言を言う為の奇跡の間を探し続けるも、
香坂の舌は台風がやってきた時の風車のように
回転を止める事を知らないようだった。
今だったら、ドン・キホーテは香坂を巨人だと間違えただろう。

我慢の限界も近く、話を途中で遮ってでもと思い始めた頃、
沈黙は突然やってきた。

それは、香坂と奥さんが、
3年のお付き合い期間を経て、青山で結婚した直後。
驚くべき事に、
お見合い結婚ではなく、大恋愛だったらしい。

そして、ハニムーンをしに、
北海道を車で一周旅行をしていた時の事だった。
驚くべき事に、
香坂は何の臆面もなく、ハニムーンと言った。

「その頃の小樽は、風情がありましてね。
いや、勿論今でもあるんだけど、まだ・・・生活観があったんですよ。
そこに息づく人達こそが風景だというか。
結局、今の小樽は観光地なんですよねぇ。
でー、アレは小樽がいたく気に入ったみたいでしてね。
なんとかして、また行きたいと常々言ってたんですけど、
私も何かと忙しくてね。そうこうしてるうちに、
そんな些細な願いも叶えられなくなっちゃって。
今にして思えば、病院を抜け出してでも、連れてってやれば。」

そこまで言うと、香坂は黙った。
そして、ゆっくりと、何かを伺うように俺の顔を見た。
香坂の顔は、何故かさっきまでの高潮ぶりがなくなり、
急激に生気を失っているようだった。

〓〓〓【前回まで】〓〓〓〓〓〓〓〓

『探偵という名の物語。』 (第一回)

『探偵という名の物語。』 (第ニ回)

『探偵という名の物語。』 (第三回)

『探偵という名の物語。』 (第四回)

『探偵という名の物語。』 (第五回)

『探偵という名の物語。』 (第六回)

『探偵という名の物語。』 (第七回)

『探偵という名の物語。』 (第八回)

『探偵という名の物語。』 (第九回)

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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学


外では、確実に、普段通り時間が進んでいる。
初秋は急に冬にはならないし、夏にもならない。
それでも、このゆっくりな時間が積もれば、
冬将軍が大名行列をしてくるし、太陽がさらに高くと空気の山を登り始める。

気になっている事がもう無視できない。
香坂の持ってくる事実がどうにも気になって仕方がない。
まず、あの、しゃ…

「ですから、もし、あなたがこの仕事を下りても、
アレはまた別の探偵を雇うだけなんです。」

少しの考えにも没頭させてもらえないか…。
別の探偵を雇う。そうすると、5ヵ月で俺を入れて四人。
それは、どういう人数なのだろうか。

香坂はコップを右手で持ち上げていた。
飲もうとしたそのコップに、水がもう入って無い事に気付くと、
香坂は氷を一つ口に入れ、バリボリと噛み砕きはじめた。

店員が水を取り替えに来ないのは、
ただの仕事熱心じゃないだけだったようだ。

「妻の頑固さ、負けず嫌いというのは、非常に驚きましたが、
私だって自分から負けるなんてねぇ。
ゲームは負ける気でやっては面白くないでしょう。」
「そうですね。」
「それにしても、夫婦ってのは不思議ですね。」
「え?」

唐突な感想に香坂を見直してしまった。

「だってそうでしょう。今回の事があるまで、
妻がそんなに負けず嫌いだなんて知らなかったんですよ。」
「はぁ。でも、たかがゲームですよ。」
「たかがゲームだから余計ですよ。
結婚は発見です。探偵さん、失礼ですが、ご結婚は?」
「…してませんけど?」
「そいつはいけません。探偵さん、そいつはいけません。
それは人生を半分損してますよ。いや、人生を損してます。」

どういう計算で、俺は人生大損ぶっこいてるのか。

「探偵さん、私はね、アレにあって、人を本気で幸せにしてやりたいって思ったんです。そもそも出会ったのは、取引先の会社でしてね。会議室に通された先で、アレがお茶を持ってやってきたんです。一目ぼれって言うんですか。そのまま、取引相手に特攻しなきゃいけなかったんですが、フッフッフ、お茶を持ってきた明らかに新人の女の子に特攻しちゃったんですな。まずは、食事に誘ったんですがね…、」

不自然な流れで、というか、この関係性で、
なぜさっきまで、いや、今でもだが、
全く知らない夫婦の馴れ初めを聞かないといけないのか。
奥さんに至っては、写メールでしか見ていない。

そうだ、その写メールもどうにも気になる。


あぁ、
それにしても、香坂は今日一番の笑顔で、馴れ初めを話している。
こんなナイスミドルの、しかも、余命半年の男の
妻に対する思いが全面にでた表情。
なかなか見られたもんではないだろう。

話は初めて二人で見た映画が34年前の「ジョーズ」で、
奥様以上に怖がってしまって失敗した話にさしかかっていた。


本当はこういう話がしたかったんじゃないかという程に、
香坂は饒舌だった。


〓〓〓【前回まで】〓〓〓〓〓〓〓〓

『探偵という名の物語。』 (第一回)

『探偵という名の物語。』 (第ニ回)

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『探偵という名の物語。』 (第七回)

『探偵という名の物語。』 (第八回)

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ご来場頂いた方々、ありがとうございました。
残念ながらご来場できなかった方、また次回!
本当にありがとうございました。

なんとか、体も壊さず、終幕まで終え、
むしろ、終わってから体を微妙に壊しましたが、
それはそれ、舞台が無事であればなんでも良いのです。

今回は、どうだったでしょうか。
色々な意味で、色々と新しい事をやってみました。
演劇的にとかではなく、個人的にですがね。

色々な人に、色々な事を言われるのは相変わらずで、
人によって様々なのも演劇ならではで。
ほめられれば浮かれ、けなされればダメージを負いながら、
ゆっくりと自分の中で咀嚼できれば良いかなと思っています。
まぁ、いつもですけどね。
ふふ。

やってる時には分からない事も、不思議と終わってみると分かる事もあり、
今、自分とトーク・トゥ・トークしているところです。
意外と今回は、発見の連続だったですし、
終わってみて、更なる発見の連続になりそうです。

収穫が多き実りの秋。

気が向いたり、整理したい時には、ブログでその片鱗をのぞかせるかもしれません。
また、次回作の片鱗もね。

これで、またしばらく、回復と実験の場へと戻り、
実験結果を発表できるようになるのは、またしばらく後ですが、
皆様が楽しみに待っていただける事だけを祈って。

じゃねー。バイバイ。

テーマ:演劇 - ジャンル:サブカル



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